日時: 2025年7月21日
場所: 第7研究棟 大講堂
議題: プロジェクト『双陽』第一次実証実験結果報告
作成者: システム自動書き起こし
【議事録開始】
皆様、本日はお忙しい中、こうして第7研究棟まで足をお運びいただき誠にありがとうございます。ただ今ご紹介にあずかりました通り、私がこの度発足した次世代型家畜生産計画、プロジェクト『双陽』の責任者を務めております。以後、どうぞお見知りおきを。
さて、早速ではございますが、我々が牧場の総力を挙げて推進してまいりましたこの計画につきまして、その輝かしい第一次実証実験の成果をご報告させていただきます。本日は皆様に、生産性の未来そのものをお見せできると確信しております。どうぞご期待ください。
我々の施設が掲げる理念は、皆様ご存知の通り、ただ一つ。生産性の際限なき追求でございます。我々は食料という根源的な資源を扱い、それを社会に供給する責務を負っております。その責務を全うするためには、感傷や旧来の倫理観といった非合理的な要素は徹底的に排除せねばなりません。生命は、より効率的なシステムへと組み込まれることで、その価値を最大限に発揮するのです。我々はそのための、いわば生命の建築家、あるいは再設計者とでも言うべき存在です。
これまでも我々は、その理念に基づき、従業員の身体構造そのものを産生物の供給に最適化する数々の処置を施してまいりました。人という不定形な素材から、無駄を削ぎ落とし、必要な機能だけを純粋培養する。その結果として確立された極めて効率的な供給体制は、既に皆様の事業にも多大な貢献をしていることと自負しております。今回のプロジェクト『双陽』は、その延長線上にあり、そして遥か先を見据えた、我々の技術の集大成と呼べる試みでございます。
今回、この栄えある最初の被験体として選ばれた人物について、少しだけお話ししておきましょう。彼は、つい先日まで我々と共に働いていた元職員です。非常に残念なことに、彼は我々の進歩的な理念を理解できず、あろうことか、この施設の機密情報を記録したデータチップを外部のジャーナリストに渡そうと画策いたしました。まったく、嘆かわしい裏切り行為です。我々が与えた職務と安定した生活を、自らドブに捨てようとしたのですから。
もちろん、彼の愚かしい試みは未然に防がれました。我々の目は常に隅々まで行き届いておりますので。そして、彼のその背信行為は、我々にとって一つの好機となりました。プロジェクト『双陽』には、頑健ながらも扱いやすい素体が必要でしたからね。彼には自らの行いを悔い、そして償う機会が与えられるべきです。我々の進歩を阻もうとする者は、自らの身体をもって、その進歩の礎となる。これ以上の再教育が、一体どこにありましょうか。これは皆様への、我々からの明確な意思表示でもあります。我々の船に乗るならば、一心同体となって未来を目指していただく。それが唯一のルールです。
では、具体的なご説明に移りましょう。お手元の端末に、彼の処置経過を記録した画像が表示されているかと存じます。そちらも併せてご覧ください。
まず、計画の第一段階として、彼には当施設における標準的な処置を施しました。我々の牧場が誇る基幹製品、皆様にも馴染み深い白と黒のまだら模様が特徴的な、あのホルスタイン種の形質を彼の身体に与えるのです。
処置室に連れてこられた当初、彼はまだ青いオーバーオールを着た、ごく普通の青年でした。我々が彼のスマートフォンに遠隔で解雇通知と、そしてこれから始まる処置の概要を送信した時、彼の顔に浮かんだ驚愕と絶望の入り混じった表情は、今でも忘れられません。まさに、自らの愚かさを悟った人間の顔でした。
我々はまず、彼の身体を構成する遺伝情報に介入し、その設計図を根本から書き換えました。するとどうでしょう。彼の頼りない体つきは、見る見るうちに変化を遂げていきます。皮膚はきめ細かな白い肌へと変わり、そこへインクを落としたかのように黒い模様が滲み、広がっていく。肩幅は狭まり、腰は女性的な丸みを帯びて大きく膨らみ、臀部は豊満にせり出してきました。彼の頭部からは、硬く鋭い二本の角が、皮膚を突き破って堂々と伸び始めます。耳は大きく、そして柔らかな毛に覆われた牛のものへと形を変え、困惑に左右へ振られる様は、実に愛らしいものでした。腰骨のあたりからは、ふさふさとした毛の生えた長い尻尾が伸び、恥ずかしげに両脚の間へと巻き込まれていきます。
もちろん、これは始まりに過ぎません。我々の目的は、あくまで効率的な家畜の生産です。施設の収容効率を考慮し、二足での歩行能力は残しつつも、全体的に背を低く調整いたしました。彼の骨格は軋みを上げながら縮み、これまで見下ろしていた我々の顔を、不安げに見上げるような背丈になったのです。同時に、生産能力に直結する最も重要な器官、すなわち乳房とそれを支える乳腺組織の増量処置を開始します。
彼のささやかな胸筋は、まるで熱を持ったパン生地のように膨張を始めました。最初は愛らしい双丘だったそれは、成長ホルモンと組織増殖促進剤の連続投与により、とどまることを知りません。皮膚は限界まで引き伸ばされ、血管が青く浮かび上がり、その内部で乳腺が複雑な樹状構造を形成していく様が、まるで生き物のように蠢いて見えるほどです。最終的に、彼の両腕では到底支えきれないほど巨大で、そしてずっしりと重い二つの乳袋が完成しました。その重量は、彼のか細い上半身を常に前へと傾かせます。
これで終わりではありません。万が一にも逃亡といった愚かな考えを起こさせぬよう、彼の手足の先は、指の骨が癒合し、硬いケラチン質に覆われた蹄へと完全に置換しました。床を打つ「コツ、コツ」という硬質な音は、彼がもはや人間ではないことを、彼自身にも、そして我々にも明確に知らしめます。個体管理のための黄色い耳標を彼の新しい耳に穿ち、所有権を明確にするための牧場の焼印を、彼の豊かな臀部に熱く押し当てました。じゅう、と肉の焼ける音と香ばしい匂い、そして彼の甲高い悲鳴が処置室に響き渡った時、私は彼の再教育が順調な滑り出しを見せたことを確信したものです。
最後に、彼の鼻腔を貫き、冷たい金属製の鼻輪を取り付けました。これで、我々は彼を容易に導くことができます。自我がどれほど抵抗しようとも、鼻を引かれれば、その身体は従うほかありませんからね。この段階に至るまでが、皆様も見慣れた光景かと存じます。彼の身体は、我々の牧場が理想とする牝牛獣人そのものとなりました。
さて、ここからが本題、プロジェクト『双陽』の真髄でございます。
従来のシステムでは、受精のためには外部から雄性の遺伝情報、すなわち精子を供給する必要がありました。これは管理コストの面でも、そして何より我々が目指す「効率」の観点からも、決して無視できないボトルネックでした。もし、一個体の中で生産の循環を完結させることができたなら?もし、外部からの供給を一切必要とせず、生命を生み出し続けることができたなら?
その、前代未聞の着想こそが『双陽』の核心。名付けて、自己完結型生殖循環。
これを実現するため、我々はまず、彼の中に残された最後の男性性の象徴、雄としての機能を担う器官に、大胆な設計変更を加えました。我々は遺伝子操作により、彼の性染色体を標準的な雌のXXではなく、クラインフェルター症候群を応用したXXY型として設計しました。これにより、雌としての身体を持ちながら、雄としての生殖機能も維持させることが可能となったのです。
具体的には、まず外部に露出する茎の部分、かつて彼が男性性の証としていたであろうその部分は、生産活動において全くの不要物です。我々はそれを、痕跡程度にまで徹底的に縮小させました。その一方で、内部の精子を生産する器官、すなわち精巣は、彼の身体が許す最大限の大きさまで肥大させ、さらに特殊な薬剤を用いてその生産能力をこれまでの数倍、いえ、数十倍のレベルにまで強化を施したのです。彼の股間には、もはや雄々しさの欠片もなく、ただ、自らの内に秘めた雌性を孕ませるためだけに存在する、異様な生産器官がぶら下がっているだけとなりました。
次に、ここが今回の技術的な妙なのですが、我々は彼の体内に、極細の生体親和性ポリマーでできた誘導管を新たに敷設いたしました。この管は、強化された精巣から、彼が元々持っていた精管をバイパスし、腹腔内の奥深くに新設された雌性器官、すなわち子宮と卵巣へと直接繋がっています。これにより、強化された器官で生産される大量の精子は、一滴たりとも無駄になることなく、彼の体内で成熟した卵子へと自動的に送り届けられる仕組みが完成いたしました。
外部からの遺伝情報供給は、もはや不要。自己の内に宿した雄と雌の機能だけで、永続的に、そして自動的に受精を繰り返すことが可能となったのです。まさに、ウロボロスの蛇。自身の尾を食らうことで永遠を体現する、完璧な循環です。
この自己受精の過程において、被験体は極めて強く、そして永続的な快感を覚え続けるよう神経系に調整を加えてあります。これは、平滑筋の収縮を促し、円滑な輸精を実現するための仕組みなのですが、嬉しい副次的な効果もございました。それについては後ほど、結果報告の項で詳しくご説明いたしましょう。
こうして彼の体内で生み出された無数の胚は、卵巣に組み込んだ特殊な内分泌物質の周期的な働きによって、母体の中で着床することなく、かつ劣化することもない状態で、大切に保存されていきます。これは、体温下で胚の鮮度を維持しつつ、着床前の段階で発育を抑制するという、非常にデリケートなホルモン制御技術の賜物です。まるで彼の体内に、生命の種を蓄える巨大なゆりかご、生きた胚バンクを作り上げたようなものですね。
彼の卵巣に蓄えられていた、受精可能な全ての卵子が尽きた時、計画は最終段階へと移行します。
もはや役目を終えた精子生産器官は、彼にとって不要なだけでなく、我々の次なる設計の邪魔になります。我々はそれを、実に丁寧な外科手術によって、彼の身体から摘出いたしました。そして、その摘出された、かつて彼の男性性の中核であった肉塊を、彼の目の前で、我々の施設の焼却炉へと投じました。ゴウ、と音を立てて燃え上がる炎を、彼は一体どのような気持ちで見つめていたのでしょうか。私には、その潤んだ瞳が、まるで過去の自分自身に別れを告げているように見えましたよ。とても感動的な光景でした。
さて、その摘出によって生まれた彼の股間の空間を、我々が無駄にするはずがありません。我々はそこに、彼の胸からはぎ取った乳腺組織をそっくり移設したのです。そして、牛の乳房を模倣し、新たに四つの乳頭をその中央にこしらえました。元々あった突起物、つまり縮小された陰茎も、その先端を外科的に処置して乳管と接続し、五つ目の乳頭として転用いたしました。これにより、合計五つの蛇口から、極めて効率よく産生物を搾り取れる設計となったのです。素晴らしいでしょう?重心が大きく下がることで、巨大な乳房を抱えてふらつきがちだった彼の身体を、どっしりと安定させるという物理的な効果も期待できます。いやはや、畑違いの工学博士号も、こういう時に役立つものですね。
では、乳腺がすっかりなくなって、がらんどうの皮袋になった胸はどうなるのか。皆様、ご安心ください。こここそが、プロジェクト『双陽』が『双陽』たる所以、最も革新的で、最も美しい部分です。
我々は、その空洞となった乳房の内部に、なんと、新たに四つの子宮を増設することに成功いたしました。左右に二つずつ、彼の心臓の鼓動を聞きながら、新たな命を育むための神聖な部屋が用意されたのです。体外への出口、すなわち膣口は、彼の両脇の下にそれぞれ一つずつ、目立たぬように新設されています。内部は見事な分岐構造を成しており、出産も極めてスムーズに行えるよう設計されております。外部からの遺伝情報の取り込み、つまり交配行為が完全に不要となったことで初めて実現できた、実に合理的なデザインです。
これにより、彼の腹腔内にある本来の子宮と合わせて、なんと五つの子宮で、同時に五つの胎児を育て上げることが可能となったのです。ああ、残念ながら骨盤内にある本来の子宮を倍にするという当初の案は、体内に設置した巨大な胚の貯蔵庫、あのかわいいゆりかごを配置する都合上、今回は見送らざるを得ませんでした。ですが、ご安心を。これは我々の次なる研究課題です。七つ、あるいは八つの子宮を持つ個体の開発も、そう遠い未来の話ではないでしょう。
一つの身体に、五つの命を同時に宿す。まさしく、歩く苗床。生きた豊穣の器の完成です。
最後に、皆様が最も関心を寄せているであろう、結果についてご報告します。
物理的な成果に関しましては、ご覧の通り、これ以上望むべくもない大成功と言って差し支えないでしょう。彼の身体は、我々の設計通り、完璧に機能しています。五つの子宮は常に満たされ、彼の腹部と、そして胸部は、常に新たな生命によって張り裂けんばかりに膨らんでいます。そして股間の五つの乳頭からは、濃厚で栄養価の高い産生物が、尽きることなく溢れ続けている。生産効率は、単純計算で従来の一個体あたり五倍以上。まさしく、我々の牧場の未来を、文字通り燦然と照らし出す輝かしい成果です。
そして、もう一つの興味深い結果が、彼の精神面に現れました。
当初の計画では、彼の自我は、懲罰的な意味合いも込めて、最後まで明瞭に保たせるつもりでした。自らが、かつて同僚たちを売ろうとしたこの場所で、永遠に牝牛として搾り取られ、孕み続けるという現実。その変わり果てた己の姿と、これから永遠に続く役割を、はっきりとした意識のもとで認識させ続けること。それこそが、裏切り者に対する最も効果的な見せしめになると、私は考えていたのです。そのため、精神への負荷を正確に測定するためにも、処置は常時発情を誘発させるに留めておりました。
しかし、これは嬉しい、本当に嬉しい誤算でした。
自己完結型生殖循環がもたらす、脳幹を直接揺さぶるほどの絶え間ない受精の快感。全身に増設された新たな性感帯、特に胸部に新設された子宮が胎児の動きに呼応して生み出す、母性的な歓喜の波。そして、我々が施した永続的な発情処置。その三つの刺激が、彼の精神の中で、我々が夢想だにしていなかったほどの凄まじい化学反応を引き起こしたのです。
彼の自我は、我々が想定していたよりも遥かに早く、そして驚くほど静かに、快楽の奔流の中へと溶け落ちていきました。抵抗も、絶望も、悲嘆さえも、全てが巨大な快楽によって洗い流されてしまったのです。処置の初期に見られた怯えや羞恥の表情は、今やどこにもありません。今の彼はただ、穏やかに、そしてどこか恍惚とした表情で微笑み、自らの身体から与えられる快感をひたすらに受け入れ、我々のために生産活動に勤しんでおります。
見せしめ、という観点では、これは完全な失敗だったかもしれません。お恥ずかしながら。彼はもはや苦しんではいない。ただ、生ける豊穣の女神として、その役割を享受しているだけなのですから。しかし、生産効率という我々の絶対的な指標から見れば、これ以上の成功はありません。精神的なストレスが完全に除去されたことで、産生物の品質は飛躍的に向上し、受胎率も100%を維持しています。
以上が、プロジェクト『双陽』の全容とその輝かしい成果でございます。この成功を糧に、我々は今後、この処置をより洗練させ、全ての生産個体へと適用していく所存です。そう遠くない未来、この牧場は、自らの内に太陽を二つ宿した、真の豊穣の女神たちで満たされることになるでしょう。
ご清聴、誠にありがとうございました。それでは、司会進行の方にお返しします。
【議事録終了】